第3話 美味しいものを作るには・・・
T・チリン・・・チリン・・
お客様ですね
「いらっしゃいませ」
「やあ」
「お久しぶりですね」
「ちょっと休憩」
「その後、調子はいかがですか?」
「相変わらず厳しいぞ」
「そうですか、あの方はこだわりがありますからね」
「そうだな、あれが人間の職人気質というやつか、人間も凄いもんだな」
「侮れないと?」
「素晴らしい技術と心意気を持った人間もいるものだ。俺ですら叱られる」
そういって頭をかくアルゼブブ様ですが・・・
「叱られるんですか?」
「ああ、修行に人間も悪魔も無いからと言ってな、厳しいもんだぞ」
「今日は何になさいますか?」
「そうだな、キリマンジェロを淹れてくれ」
「はい、かしこまりました」
「同じコーヒーでも淹れ手が違うと味が違うな」
「そうですね。その時その時で味は変わります」
「そこなんだ。師匠が淹れるコーヒーと俺が淹れるコーヒーで同じものを使っているのに味が違う・・・」
「そうですか。」
「ピザも作るんだが足元にも及ばん。
この違いは何なんだろうな?」
悩んでおられるみたいですね、アルゼブブ様


U・ 「コーヒー旨いな」
「ありがとうございます」
助け舟出したらあの方に叱られますかね?
「なぜ、弟子入りしたんですか?」
「ん?おれか?あれは・・・以前の話だが
ちょっとした気まぐれで人間の世界が覗きたくなってな。
人間に姿を変えて降りた事がある」
「それは、それは」
「その時にちょっとした出会いがあってな。人間の女性にお茶をご馳走になった。
暑い時でな、アイスコーヒーを淹れてくれたんだ」
「お手製ですか?」
「ああ」
「手作りのアイスコーヒーですか、なかなかですね」
「コーヒーが好きなそうでな、なかなか美味かった」
「それがきっかけですか?」
「一度俺がアイスコーヒーを淹れた事があってな。
美味くなかったはずなのに美味しいと言って飲んでくれたんだ」
「それで、弟子入りを?」
「次は本当に美味しいコーヒーを飲ませたくてな。
だが、困った事にこの女性もコーヒー淹れるのが上手いんだ・・・」
「好きこそ物の上手なれ、ですね」
「こいつ上手い事いいおる。納得させるコーヒーが淹れられるようにと思ってな」
「美味しいものを飲ませたい、美味しいものを飲みたい。この違い分かりますか?」
「?一緒だろ・・・いや、違う・・・違うな」
「気がつかれましたか?」
「そういうことか・・・おっと、長居したな、雷が落ちそうだ」
「コーヒー美味かったぞ」
「ありがとうございました」
頑張ってくださいね、アルゼブブ様・・・あの方は厳しいですからね、これからが大変ですよ。
チリン・・・チリ・・チリン
お客様のようです・・・


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